
パワハラの認定には、「加害者の目的」が問われるべきなのか、それとも「被害者の心理的負荷」の観点がより重要なのか。この議論は、職場の健全性を保つ上で重要であり、今後の労働環境の改善に向けて、より公正な基準の確立が求められる。企業と労働者の双方が納得できる形で、指導とハラスメントの境界線を明確にすることが必要だろう。
この事件は2021年1月に発生した。日本カーボンの研究員だった男性が自殺し、その後、2025年4月30日遺族が会社と元上司に対して損害賠償を求める訴訟を起こした。近年、企業の社会的責任(CSR)が注目される中、職場の安全と社員の健康管理は極めて重要なテーマだ。しかし現実には、過度なノルマと厳しい叱責によって精神的に追い込まれる社員が後を絶たない。
研究員として配属された入社2年目の25歳の男性社員は、未経験の分野に挑みながらも具体的な指示を受けられず、上司から「使えない」と繰り返し叱責された。進捗レポートの再提出を求められるたびに、自信を失い、精神的に追い詰められていった。結果として労災認定を受けるに至ったが、企業は「心理的負荷はなかった」と主張し、遺族の訴えを退けた。
労働基準監督署は、上司の強い叱責やトラブルが心理的負荷を与えたことを認めつつ、それが「業務指導の範囲内」とし、パワハラには該当しないと判断した。しかし、代理人弁護士らはこれに反論し、過度なレポート再提出要求などが社会通念上相当ではないとして、パワハラに当たると主張している。
この問題は、職場における「適切な業務指導」と「パワハラ」の線引きを改めて問い直すものだ。労基署の判断では、叱責が人格否定を目的としていないためパワハラにはならないとされる。しかし、被害者側の視点に立てば、具体的な指示がないままに執拗な修正を求められることは、心理的負荷を増大させ、業務改善の域を超えた圧力となる可能性がある。
パワハラ問題を考える際には、企業側はより広く捉えて対処することが重要です。そのためにも、パワハラの相談窓口は社内だけでなく、社外の相談窓口も活用していただきたいと思います。ぜひ、さくら相談の「つながり相談室」を活用してください。